シフクノトキ

至福、雌伏、私服。

あの夏の日に戻れなくとも

あれは多分高一の夏休み、海に入ったのだからお盆前のはず。

その日、Yと私は横浜ルミネのぴあステーションに始発で駆けつけ、首尾良く目当てのチケットが取れたので、いい天気だし、海でも行くか!と盛り上がったんだ。

午後一の由比ヶ浜は台風接近中で黄色い旗がはためいていた。私たちは足が届くギリギリの際でちょっとうねりのある波に嬌声をあげながら、遊泳禁止寸前の夏のひとときを存分に味わった。

 

Yの訃報は、思いがけないシチュエーションでもたらされた。仕事帰りに街角で中学の同級生とばったり出くわし、しばらく話しこんだ。その話の中で、Yがまだ幼い子どもを残して、病気のためこの世を去ったことを知った。

Yはスポーツがかなり得意だったから、健康そのものというイメージしかなかった。高校卒業後になんとなく連絡を取らなくなりそのままになっていたけれど、どこかで元気にしているものだとばかり思っていたから、つらかった。

 

大親友、というのとは違うが、多感な時期のかなりの時間を共に過ごし、思い出もたくさんある。深い話をほとんどしなかった分なのか、一緒に行った様々なイベントと彼女の印象的な笑顔を思い出す。

オフコースの武道館コンサート、高校生クイズの予選大会、スキー旅行、学校の同好会活動。あと、父の会社の懇親パーティーに誘ったこともあった。

 

それでも一番印象に残っているのは、冒頭の夏の一日なのだ。二人きりだったからなのか、思いつきで海に行ったからなのか、波に翻弄されるのが心地よかったからなのか。

もう一度会って、あの夏の日の印象をYから聞いてみたかったけれども、叶うことはない。

話したり笑いあったりすることはもうないけれど、あなたのことは忘れない。由比ヶ浜の海を見たら、あの日のことを宝物のようにそっと取り出そう。

 

こんなセンチメンタルな気分にぴったりな曲は、やっぱり“夏の終り”。

夏の終り

夏の終り