シフクノトキ

至福、雌伏、私服。

春にして君を離れ~読書感想

ネット、特に小町でAC本として大絶賛されていた。
恐い、哀しい、最高傑作、と称賛されていたので、イヤでも期待が高まっていた。

が、結果は幾分拍子抜け。
というか、これってよくあることじゃないの?
多かれ少なかれ夫婦関係・親子関係とはこういうものだと思うから。
家族が抑圧装置だと知らずに家族している人が、まだまだ多数派ってことなのだろうか。

砂漠を彷徨いながら核心に近づいていくシチュエーション、思考の変遷の描写は見事としかいいようがない。
またこういうテーマを取り上げるのは、当時としては斬新だったのかもしれない。
発表から70年経っていることを鑑みるに、傑作なのは間違いない。

だから、私の違和感は作品そのものに対してというより、ネットに感想を漏らした人たちの育ちの良さに対するものなのかも。

自分も抑圧されて育ってきたかもしれないし、自分もまた抑圧する家族を作ってしまうかもしれない。
その自覚を持ち続け、絶えず自問するしかない。
それだけ、<家族をする>には覚悟とパワーが必要。

こんな上からのイヤーな感想を持つのは、私に娘がいないからかもしれない。
女の子がいたら、また違っただろう。
女子を心穏やかに育てるのは、私には多分できない。男子相手だってこうなんだから…

もうひとつ印象に残ったのは。
主人公の容貌が、年齢に対して非常に若作りに表現されている点。
苦労を知らない裕福な女性というだけでなく、内面に葛藤を抱えたことがない、要するに成熟とは程遠い未熟な人物だということ。軽薄さが外見に滲み出ている感じ?
何だか、現在のアンチエイジング・美魔女といった、女性を煽り立てる傾向を連想させる。
でもこういう女性って、どんな時代にも一定の需要はあるんだろうけど。
(2014/08)